freelovemoney:

laura makabresku: first signs of winter, sensitive wounds and warmth of bedclothes.

あとがき

 さて、この短篇集に収録した小説は、ほとんど、名もなき平凡な登場人物たちによって進んでいきます。無名で凡庸であることになにかの意味を持たせ、それを声高に主張したいとは思いません。僕らは無名であり、凡庸であるという物語が、ただここにあるだけです。もし僕が文学に出会わなければ、普段は気に留めることも、考えることも、ましてや書き残すこともなかっただろうと思います。
 そしてこれらの小説は、すべて一人称によって描かれています。もともと一人称は、三人称と同等か、それ以上の奥行きを持たせることのできる技法です。残念なことに、九十年代の主流な文芸誌において、読み手を信じ、書かないで書くという、この一人称の真髄は誤解され、私小説の伝統は衰退し、僕らは異端としてウヱブに活路を見出すしかなくなったのですが、文学における失われた二十年は、けれどもしかし、僕らの青春そのものでもありました。

*選集『ウヱブ短篇集』より

mlsg:

Cool down

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Cool down

(via iro-iro-iro)

不二子ちゃん

 雨が降りはじめる前に帰ろうと思ったが、ドンキの入口がすごい人だかりで、足踏みが鈍った。ちょうどスロット屋が側にあり、小日向に申しわけなく感じながらも、魔がさした。自動ドアが開けっ放しで、店内が丸見えだったのが、わるかった。
 入ってすぐに不二子2があった。福岡のぐうたら夫婦とよく打っていたから、懐かしかった。まだ東京に来て三日も経っていないが、とにかく愛おしかった。どう考えても、不二子ちゃんがおれを誘っていた。騒々しい店内アナウンスに紛れ、甘くも切ない呼び声が、たしかにおれの耳には届いてきたのだ。
 向かい合わせで二列あるうちの、ほとんどに客が座り、空きは三台しかなかった。どれもだめそうだったが、一台だけ大当たりがないまま、五百回転で止まっていた。理由はわからない。入口から二番目の台だった。
 期待はしていなかった。けれども願望はあった。二十回ほど回転させたところで、バイクに跨った不二子ちゃんが、液晶から消えた。赤7がダブルラインで揃って、スーパービッグ。ルパン三世のテーマ曲がはじまった。
 不二子ちゃんタイムでの大当たりが四連荘。四回目のチャンスタイムが終わり、どうせ設定は4だろうと思った。二百回転までさせて来なかったら、もう止めようと考えた矢先、画面に大きな赤7が降ってきた。ビッグ確定。またルパン三世のテーマ曲がはじまった。

*小説『バタースカッチ』より

今夜はブギーバック

 ダンスフロアに華やかな光が舞っている。おれをそっと包むようなハーモニーが聴こえる。急に流された懐かしい曲に、地下に留まっていた熱気が膨らんで、吹き抜けを昇ってくるのがわかった。もうとっくに踊り疲れていたおれは、トイレ脇の壁にもたれ、そんな階下のエネルギーを羨ましいと思った。

*小説『バタースカッチ』より

熟練者の葛藤

 技能を高めると、全体を意識しながら部分として動くことができる。システム開発の分野だと、直観の優れた技能者同士で仕事をすると、まるでジャムセッションのように、全体と部分を揺れ動く視座に敏感に反応しながら、開発を進められる。いわゆるアジャイルと呼ばれる手法がこれ。

 ただ、今の日本では、ドレイファスモデルで言うところの、第二段階、第三段階よりうえの技能者は滅多にいない。俺の実感でもそう。しかも高度資本主義のグローバル社会で、第三段階に資本が流入しやすいという現状がある。

 もし俺に子供がいたとして、なにかの分野の技能を極めたいと言い出したら、ひょっとしたら全力で止めるかもしれない。ご年配の方に、献身しないと才能が枯れるなどと言う人は多いが、献身の果てに、潰れてきた人を多く見てきた身としては、それがいかに立場に依った言説かが分かる。

 正直なところ、弱い立場にある熟練者や達人の高い技能は、搾取の対象だ。太宰を殺したのは大衆だと言ったのは、柳美里さんだと記憶しているが、もっと言うと、大衆を騙す第三段階の技能者、例えば象徴的に、井伏のような人物が、結局は太宰を追い詰める形になったんだろうと思う。

j-p-g:

joy maker (via red *)

j-p-g:

joy maker (via red *)

(via d-d-d)

時計台

  

 あの聞こえないメロディが

 いまこの町にかえってきた

 

 それは同じ音のくり返し

 ただ無意味に思われて

 ぼくは少しだけきらいだったんだ

 

* 詩集『学生のうた』 より