petitpoulailler:

storybook-magic: So here we are by RazorBrown

君香るとき

  

 十年前の今頃はきっと、城跡の袂に落ちた廃墟の隅で、白亜の塀、

 篠竹に荒く編まれた囲いの中の、桜花と君とドコモベル、鳴ってたね、

 泣いてたよ、安全と安心、安堵なオノマトペを穏やかに声帯が奏で、

 色褪せた学生服を首尾よく纏って、藍へと溶けた記憶に包まれる心地の、

 縦に綴られる毎日の終わりが来ぬように、渇きを潤す薬用リップ、

 煙草の香りは二本に流れて嘯いた、今日こそ水飛沫の弾ける方向へ、

 明日こそ陽が踊った国道へ、僕も隣で駆けるよと、消えゆく秒に結んだね、

 誰も知らない片田舎、あの体育館の裏には成長を拒んだ宿根草、

 完全自殺マニュアルが参考書、パルプフィクションが憧憬スタイル、

 揺蕩うサーフロックの焦燥が嫌いで、加速するピックに両鼓膜を塞いで、

 逃げたかった、始業チャイムが鳴り響いても僕の手を離さなかった君、

 緩やかな丘陵を避けて飛ぶ白鷺に、斜めの視線を撃ちつけ呟いた。

 

 私、どこにおるん

 

 液晶を貫く二百五十六の嘘が、意のない文字に成り果てる。

 幾千もの枕木を飛び越えて、南中高度は急降下、

 同じ椅子と似た格好、規則正しく居座り扱ける乗客に、

 降り注いだ、恒星の残骸。フレグランスが微かに蒸発する。

 吊り革が脂ぎって、誇大広告の活字が読めないから、

 まだ君が君であった時代の懐かしい古典を思い浮かべる。

 誰かの携帯が誰かの思い出を随時に受信するのは、

 各駅ごとに近づく隘路への、少なからずの手向けだと、

 父の暴力に学んだ、単館で観た哀しい新人俳優。

 名前は忘れた。ガラス窓を揺らぐはずの郊外に騙されて、

 ビジネスマンがついに堰を切り、次に僕の番がやって来る。

 僕の番がやって来る。名前は忘れたけれど、歩まれる。

 何時から昨日が終わるのか、車掌の問いは古された。

 返信を待って、同じ椅子と似た格好、緩い市民を置き去りに、

 細い左手、突き掲げ、混線する欲、切り裂いて、全ての、

 過ち、突破する、君がここにいること、声にして。

 

nabep:

天野喜孝の新作だそう (Instagramで撮影)

nabep:

天野喜孝の新作だそう (Instagramで撮影)

GO LEFT, GO SIFT, GO GO FAST

 店に警察が入った。
 僕はとくに出頭とかしなくてすんだんだけど、日常の拠りどころとしてあった場所がなくなったのはやっぱり寂しい。女の子の待ち合い室に差す西日とか、ビルの屋上から見た中洲の景色とか、狭い路地にある飲み屋のおばさんとの挨拶とか、日常の優しさが国家によって壊された。
 それが先月の二十日ぐらいの出来事で、翌日から無職になった僕の扁桃腺はすぐに腫れた。精神ダウン波は最弱部の肉体反応として出てしまう。朦朧とした意識のなかで、僕にはなにも表現できないんだという思いが募って、でも一人で生きなきゃなんないっていう状況があって、もちろんこれは僕が選択した自由への意志で、つまり釈迦の手のひらで、だからやっぱり生きなきゃ進まなきゃ、恐れるべきは停滞で、飽きで、脳の忘却能力で、資本主義で、なにも考えてないやつらで、国家で、教育で、またはそれらを統括しようとする思想で、無茶な選択をせまるユビキタス販売競争で、新語やカタカナ語を教える現代用語辞典で、「サルでもわかる」入門書で、恋愛から職業意識まで男女の生き方を教えるエッセイで、はじまる前から歴史的であると告知された「歴史的イベント」で、「自分で自分を褒めてあげたい」で、新聞で、テレビで、メッセンジャーによる筆談で、最小限の時間で「盛り上がる」ように構成された音楽で、ストレスには良いストレスと悪いストレスがあると教える「ストレス学」で、社会はすでに消滅したと説く「社会学」で、情報の検索のための検索のための検索エンジンで、動機の形成から集団実践にいたるまで商品世界は拡大し、そして、
 僕らは目的なき市場経済の実験場だ!

*詩集『LASTCOUNTDOWNZEROZERO11』より

時代と難民を、Kくんに贈る

  

 80s から 90s にかけての時代は、

 兄ちゃんとその友だちの真似ばっかしてたんだよね

 ユニコーンのコピーバンドやってた兄ちゃんは EBI パート

 懐かしいよね『ペケペケ』とかはだれでも知ってんじゃないの

 最初にもらったスコアは筋肉少女隊のだったりして、

 覚えたベースコードは『日本印度化計画』まじ笑えないよね

 安達哲や岡崎京子の初期のマンガ、

 あれにぼくと同い年で共感できるやつらって、

 韓国の追いつけ追いこせじゃないけど、

 どっかでちょっと上の 80s ノスタルジーに憧れてたとこない?

 だからぼくらは 90s を失敗させちゃったんだよ

 韓国マンガのいまの不自然な雰囲気、

 あの感じってぼくらのいびつなスタイルにまんま通じちゃう

 日本をインドにできなくてカレーも食えなかったから、

 部屋に引きこもるか本物のインドにいくしかなくなっちゃった

 兄ちゃんたちの世代はまだ力のぬき方がうまかったよ

 根本にちゃんとニヒリズムやシニシズムを隠してて、

 最後の落としどころをよく分かってた気がする

 ぼくらは「あえて」を必死でやっちゃった

 とにかく 90s はほんと暗かったね

 ニューアカすら体験もしてないぼくらの世代で、

 まだなになに的、なになに性、そんなことばっか言ってっと、

 これからも 90s に捕われて時代の概念はきっと生まれないよ

 

         「あなたのセックスはオナニーね」

 

 「なに? なんか言った?」

 

* 詩集『helpless』 より

目覚め

  

 毎週土曜のカウンセリングから帰る

 爆発しない心が前頭野で斜に痛む

 原色の雑踏が一瞬の秒だけ灰色にかわる

 母親に手を引かれる児童は泣きそうだ

 ビルが細胞壁みたいに切り取る曇天

 同時に空を見上げたぼくと児童

 先に涙を地球に落とすのはどっちだ

 思想と資本の破片を銃に装填するのはどっちだ

 中東とアメリカはもうくるったね

 次にくるうのは日本だよ

 女臨床心理士が脚の組みかえで見せたデルタ

 海馬から起こされるデータで股間が勃起

 アボガドに似た衝動が下半身で革命をはじめる

 目覚めっておもしろい言い方だね

 目覚めたらなにをしでかすかわからないよ

 ぼくの反権力と男尊女卑は生物学的な種類だ

 パクりしかできない人間が地球を相続する

 

* 詩集『helpless』 より

製本と電本

 製本の形式はかなり完成されていて、もうほとんど伝統芸能の領域。保守が幅を利かせるのは当たり前だし、もちろん信者もつく。ついこの間まで放送していた時代劇、水戸黄門の印籠みたいに、規格に則った反復をやれば、保守も信者も、簡単にカタルシスを得られるわけだから、楽なのは目に見えている。

 問題はネットの登場、ウェブの普及による情報革命。そしてエネルギーに溢れ、規格に弱い若者がそこに飛びつく。規格教育の失敗、つまりゆとり教育も油を注ぎ、今は炎上、七面倒くさいことになっている。形式信奉のある京極夏彦が、製本への愛を語りながらも、電本に向かわないといけない葛藤もそこ。

 俺は昔から右。『るり子』なんかを読んでもらえれば、よく分かると思う。信仰を持っている人が好きだし、そうゆう人たちの孤独感や疎外感、そして喪失感を主題のひとつとして扱ってきた。多様な信仰に対する無知を減らし、そこからくるフォビアを和らげることで、もっと生きやすくなると考えている。

黒い爪

 兄貴がガソリンスタンドでバイトしていて、爪がいつも黒くて、それに憧れた時期があった。大学に進学し、普通免許を取って、俺が最初にしたバイトは、やっぱりガソリンスタンド。オイル交換のときとかに、爪が黒くなるんだけど、兄貴みたいになった爪を見て、ああ、と思った。ああ。

才能と献身

 才能は献身とともにある。これはだれに教わるわけでも、強制されるわけでもなく、自然の理だから、自明のこと。俺がずっと問題にしているのは、本物の才能ではなく、無知や保身からくるフォビア。彼らは理解できない死に怯え、罪なき人々を叩き、支配欲に塗れる。信仰がないとはつまり、そうゆうこと。

bellakotak: